サラリーマンが不動産投資で節税する仕組み
損益通算により課税所得を抑える
サラリーマンは、不動産投資で得た不動産所得の赤字を給与所得と損益通算(同一年分の利益と損失を相殺すること)することにより、節税ができます。不動産所得が赤字になるのは、不動産投資により支出した諸経費を必要経費として不動産収入から差し引くためです。
累進課税制度により、サラリーマンの給与所得が高ければ高いほど税金も多く課せられます。その給与所得と不動産所得の赤字を損益通算することで課税所得を減らし、所得税を安くすることができるのです。
特に不動産投資を開始する初年度は不動産購入に関する諸費用など支出が多く、不動産所得の赤字は大きくなる傾向にあります。そのため、高い節税効果が期待できるでしょう。
損益通算で節税ができる具体的な仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
>不動産投資の赤字は損益通算で節税になる!仕組みや良い赤字があることも理解しておこう!
減価償却により経費を増やす
不動産投資の節税効果は、減価償却が大きな役割を果たします。減価償却とは、建物や機械など資産の取得にかけた費用の全額をその年の経費に計上せず、耐用年数に応じて分割した金額を費用に計上することです。
建物には構造や用途によって耐用年数が定められており、決められた年数に沿って毎年減価償却費を計上します。
例えば、鉄筋コンクリートのマンションは耐用年数が47年であり、購入価格を47年間にわたって経費計上することができます。減価償却費は支出のない経費であり、節税しながらキャッシュフローを増やせるのがメリットです。
減価償却を利用した節税のより詳しい仕組みについて知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
>不動産投資の『減価償却』を利用して節税できる⁉その仕組みや計算方法までプロが徹底解説
不動産投資で節税できるシミュレーション
● 基礎控除:48万円
● 給与所得控除:190万円
● 社会保険料:121万円 の場合
【所得税の計算】
基礎控除など各種控除の合計359万円を差し引いた課税所得は、「800万円−359万円=441万円」です。
課税所得441万円の所得税率は20%で、42万7,500円を控除します。
「441万円×20%−427,500円=454,500円」
所得税は45万4,500円となり、生命保険料控除など各種控除がある場合はさらに低くなる場合もあります。
【住民税の計算】
住民税の基礎控除は43万円のため、課税所得は「800万円−354万円=446万円」です。
住民税の税率は一律10%で、すべての住民に課せられる均等割の5,000円が加算されます。
「446万円×10%+5,000円=451,000円」
住民税は45万1,000円で、所得税との合計で年間に支払う税金は90万5,500円となります。
次に、不動産投資で不動産所得に赤字50万円が出た場合の所得税・住民税を計算してみましょう。
【所得税の計算】
課税所得は損益通算により441万円から赤字の50万円を差し引き、391万円になります。
課税所得391万円をもとに計算した所得税は、以下のとおりです。
「391万円×20%−427,500円=327,500円」
所得税は32万7,500円で、不動産投資しない場合よりも12万7,000円の節税となります。
【住民税の計算】
課税所得の446万円と赤字の50万円を損益通算し、396万円が課税所得になります。
住民税の計算式に当てはめると、以下のとおりです。
「396万円×10%+5,000円=401,000円」
住民税は40万1,000円で、5万円の節税になります。
合計すると72万8,500円の税額となり、17万7,000円を節税できるという結果になりました。
参考:国税庁「給与所得控除」
参考:国税庁「所得税の税率」
参考:総務省「個人住民税」
このように、不動産投資で効果的に節税するためには、事前の収支シミュレーションが非常に大切になります。以下の記事ではモデルケースを立てて実際にシミュレーションをしていますので、併せて確認してみてください。
>不動産投資の節税はシミュレーションが大事。節税できる理由も解説
不動産投資で節税に成功するポイント
そのため、できるだけ減価償却費が大きくなる物件を選ぶことが大切です。不動産投資で節税に成功するポイントをみてみましょう。
節税効果が出やすい物件を選ぶ
不動産投資で節税効果が高いのは、築年数が古い中古物件です。特に木造の法定耐用年数は22年と他の構造に比べて短く、同じ価格で同じ築年数の不動産と比べて減価償却費を大きくとることができます。より不動産所得の赤字を増やし、課税所得を減らすことが可能です。
また、法定耐用年数の22年を経過している場合、「法定耐用年数×20%」の年数で減価償却ができます。算出した年数に1年未満の端数があるときは端数を切り捨てるため、木造住宅であれば4年という短い年数になります。1会計年度で計上できる減価償却費は、より大きくなるのです。
これに対し、節税に向いていないのは新築区分マンションです。減価償却期間が長いため、1年間に計上できる減価償却費は少なく、節税効果はあまり得られません。不動産を購入した初年度は登記費用や金融機関に支払う諸費用などの支出があり、どの不動産でもある程度の節税効果を得られます。しかし、翌年以降に計上できる経費が少なくなり、節税効果はほとんど感じられない可能性があるでしょう。
経費を正しく申告する
経費は所得から控除されるため、正しく申告すれば課税所得額を減らせます。課税所得額が減ると、所得税額・住民税額も減ることがあり、節税につながります。
発生する経費とは?
不動産投資の経費には次のようなものがあります。
● 減価償却費
● 不動産取得税・固定資産税・都市計画税
● 管理費
● 修繕積立金
● 損害保険料
● 借入利子
● リフォーム費用
● 賃貸管理代行手数料
ここでは、不動産投資に伴い発生する経費について、それぞれの概要などを解説していきます。
「どこまでなら経費として算入していいの?」と悩んでいる人には、計上できる範囲等についてまとめた以下の記事もおすすめです。
>不動産投資の経費はいくらまで落とせる?上限の有無や計上できる範囲を解説
減価償却費
減価償却費とは、固定資産の価格を耐用年数に合わせて減価し、その期ごとに費用として計上する費用です。
たとえば、建物の価値が100万円減価する場合の仕訳は次の通りです。
借方 | 貸方 |
減価償却費 100万円 | 建物 100万円 |
減価償却費という費用が発生し、その分建物の価値が100万円分減少しています。
このように減価償却費は現金の流出が伴わずに費用を計上できるので、減価償却費を多く計上できればキャッシュフローを損なわずに利益の圧縮が可能です。
不動産取得税・固定資産税・都市計画税
不動産を購入すると不動産取得税が発生し、不動産を所有すると固定資産税が毎年発生します。また、不動産が都市計画区域内にある場合は、都市計画税も別途発生します。
不動産取得税の税率は『不動産の評価額×4%』です。また、固定資産税の税率は『固定資産税評価額×1.4%』です。
管理費
管理費とは不動産を維持するために必要な費用で、管理員の人件費や共用部分の清掃代・電気代などに充当される費用です。
実際に居住していなくても、不動産を所有しているのであれば管理費を管理組合に納めなければなりません。
管理費はマンションによって異なりますが、1戸あたり1万〜1万5,000円が平均となっています。
修繕積立金
マンション投資の場合、マンションの大規模修繕に備えた修繕積立金の支払いも必要です。
修繕積立金の平均は1万1,000円程度といわれています。
なお、修繕積立金を費用計上できるタイミングは、積み立てたお金を使用して実際に修繕を行うときです。
管理組合へ修繕積立金を支払った段階では、原則として経費計上できないので注意しましょう。
損害保険料
不動産を所有したら、火災保険や地震保険への加入も必要です。
もしものときに補償を得られないだけでなく、銀行の融資を受けるためには火災保険や地震保険への加入は必須です。
火災保険料の平均は5年間一括払いで32万〜40万円程度といわれています。
年間6万〜8万円程度、月々5,000〜7,000円程度が平均的です。
借入利子
ローンを利用して不動産投資をする場合、そのローンの借入利息は経費になります。
たとえば1億円を金利1.5%で20年ローンで借りた場合、借入一年目の利息負担額は次のようになります。
1ヶ月目 | 125,000円 |
2ヶ月目 | 124,479円 |
3ヶ月目 | 123,958円 |
4ヶ月目 | 123,437円 |
5ヶ月目 | 122,916円 |
6ヶ月目 | 122,395円 |
7ヶ月目 | 121,875円 |
8ヶ月目 | 121,354円 |
9ヶ月目 | 120,833円 |
10ヶ月目 | 120,312円 |
11ヶ月目 | 119,791円 |
12ヶ月目 | 119,270円 |
利息の負担額は毎月異なるので、返済予定表を確認して正しく経費計上してください。
なお、借入金の元金返済部分は経費にできません。
リフォーム費用
投資物件のリフォームを行う場合には、当該リフォーム費用も経費にできます。
リフォーム費用は物件の大きさやリフォームの規模によって異なりますが、高い場合には数百万円程度かかることも珍しくありません。
敷金で行う部分は経費にはできませんが、大家負担で行う部分は「修繕費」の勘定科目で経費にできます。
賃貸管理代行手数料
一棟マンションに投資をする場合、管理会社と契約するのが一般的です。
この際の管理会社へ支払う管理費用を「管理代行手数料」といいますが、管理代行手数料も経費にできます。
一般的には管理費用の相場は家賃収入の5%といわれています。
不動産投資の経費になるもの
以下は、不動産投資において経費と考えられます。正しく申告し、課税所得額の減額に活かしてください。
●不動産投資の対象不動産の固定資産税、都市計画税 ●減価償却費 ●修繕費(原状回復、故障した設備の修繕・交換) ●ローンの利息分の支払い ●損害保険料 ●管理会社に支払う管理費、修繕積立金 ●入居者募集のための広告費 ●税理士などの専門家への報酬 ●そのほか、通信費や交通費など |
不動産投資の経費にならない可能性があるもの
以下は、不動産投資においては経費とならない可能性があるものです。経費として申告すると、後で税務調査を受ける可能性あるので、気をつけましょう。
●所得税、住民税、法人税 ●物件の資産価値が向上する工事の費用(経費とはならないが、減価償却できる) ●ローン元本分の支払い |
適切な管理会社を選ぶ
管理会社に支払う管理費などは、経費として計上できます。しかし、だからといって管理会社を適当に選ぶと、支出が増えて利益が減ってしまいます。費用対効果を分析し、金額に見合ったサービスを提供する管理会社を選ぶようにしましょう。
管理会社を選ぶときは、管理の内容に注目してください。適切に管理している管理会社なら、資産価値を維持しやすく、家賃の設定が急落することも避けられます。
実際に管理会社が管理している物件をいくつか見学すると、どの程度の管理を実施しているのか理解しやすくなります。大切な資産を守るためにも、丁寧に調べてから管理会社を決めることが大切です。
年収1,000万円以上の節税対策とは?各種控除など節税方法を紹介
不動産投資の規模を拡大する
初年度は不動産取得税などもあるため、経費として計上できる金額が大きく、節税効果も大きくなることが多いです。しかし、2年目以降は下がるため、節税効果も薄まってしまいます。
また、経費のなかでも特に大きいのが減価償却費ですが、減価償却の期間が終わるとなくなるため、節税効果もほぼなくなってしまいます。サラリーマンが節税目的で不動産投資をおこなうなら、減価償却の期間が終わる前に次の不動産投資に着手することも検討してください。
不動産投資の規模が大きくなると、節税効果も増やすことが可能です。ただし、ローン返済による負担が増えることで、利益が一時的に上げづらくなることもあります。支払いや経費、期待できる利益を具体的に書き出し、資金計画を立ててから規模拡大を実施しましょう。
所得税・住民税は法人になることで節税できる場合がある
所得税や住民税は法人になることで節税できる場合があります。
法人税の税率は15%〜25.2%と、あらかじめ税率が決まっています。
一方、個人の税率は累進課税で所得が大きくなればなるほど、以下のように高くなっていきます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁|所得税の税率
法人税15%が適用される中小法人の場合、所得が330万円以上であれば個人のほうが税率は高くなります。
不動産所得が一定以上になったら、個人で申告するよりも法人のほうが税率が低いため、法人成りすることも検討しましょう。
不動産投資で法人化することには、そのほかにも多数の利点があります。以下の記事に詳細をまとめました。
>不動産投資で法人化をするメリットは?法人化のタイミングなども解説
所得税・住民税以外に節税できる税金とは?
それぞれ、節税できる仕組みについて解説します。
相続税
主な相続財産が預貯金などの場合、不動産投資によって相続税を下げることが可能です。相続財産が1億円の現金であれば、相続税評価額も額面通りの1億円です。しかし、建物の相続税は固定資産税評価額や賃貸していることなどを考慮し、不動産価格よりも評価額が下がります。評価額が低くなるほど支払うべき相続税が少なくなり、節税になるでしょう。
建物の固定資産税評価額は時価の60%程度で、人に貸している場合はさらに70%程度に評価が下がります。
1億円で購入したマンションの場合は「1億円×60%×70%=4,200万円」の価値になるわけです。
また、相続税は基礎控除額があり、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の金額以下であれば相続税を納める義務はなく、相続税の申告書を提出する必要はありません。
1億円の事例では、現金を2人が相続した場合「1億円−3,000万円+(600万円×2)=5,800万円」で相続税を収める義務がありますが、不動産投資の場合では「4,200万円−3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=0」で、相続税の支払いを免れます。
贈与税
不動産投資は贈与税対策にもなります。贈与税とは、個人から財産を譲り受けた際に課せられる税金です。贈与税の評価も基本的に固定資産税評価額を基準にし、賃貸している事情も考慮されるのは相続税と同様に考えてよいでしょう。
贈与税は基礎控除が110万円で、控除後の金額によって税率が決められています。例えば3,000万円の不動産を贈与する場合、基礎控除後の2,890万円は税率45%で、265万円が控除されます。
また、一定の適用条件を満たせば「相続時精算課税」という方法を選ぶことができます。贈与者が贈与する年の1月1日に60歳以上の父母か祖父母であり、受贈者は同じように20歳以上かつ贈与者の直系卑属(子供や孫)である場合です。
相続時精算課税を選択した場合、生涯のうちに受け取る財産が2,500万円を超えなければ課税されません。ただし、財産を受け取っていない年であっても毎年申告する必要があります。
不動産投資の節税が向いている人・向いていない人
不動産投資で節税すべきなのは課税所得が900万を超える人
課税所得が900万円を超えている人は、不動産投資による節税メリットが大きくなります。
課税所得が900万円以上になると、所得税率は33%と899万円以下よりも10ポイントも高くなるためです。
課税所得が900万円の方の所得税は900万円×33%-153万6,000円=143万4,000円です。
一方、不動産投資によって赤字を出して課税所得が800万円の場合、所得税は800万円×23%-63万6,000円=120万4,000円と、所得税は23万円も安くなります。
不動産投資で赤字を出して課税所得900万円未満にすることで所得税を大きく引き下げられます。
不動産投資の節税に向いていないのは課税所得が900万円未満の人
課税所得が900万円未満の人は不動産投資で課税所得を引き下げたとしても、それほど多くの節税メリットは得られません。
所得を引き下げることはできても、税率を23%から引き下げられるわけではないためです。
もちろん課税所得が900万円未満の方も不動産投資によって副収入を得られるのはメリットですが、節税目的で投資をしても、それほど大きな効果はないでしょう。
相続対策をしたい人にもおすすめ
年収の面であまりメリットはなくても、相続対策を考えている人には不動産投資をおすすめします。現金資産を多く持ち、相続税を抑えたいと検討している場合は検討してみるとよいでしょう。現金を不動産に変えておけば、相続税の削減効果が期待できます。
相続対策とともに、上手に賃貸経営を行うことで資産形成もできるという2つのメリットが得られます。
課税所得が低い人は資産形成を目指す
前に説明したように、課税所得が900万円以下の人は節税目的の不動産投資をおすすめできません。課税所得が低いと不動産譲渡の際の税率との差が小さく、結果的に節税効果が得られないためです。
ただし、不動産投資の本来の目的は家賃収入による資産形成です。あくまで資産形成を目的にするのであれば、年収はほとんど関係ありません。ローンを組むために必要とされる基準を満たせば十分でしょう。
また、不動産投資が事業的規模になれば、確定申告の青色申告により最大65万円の特別控除を受けることができます。給与所得や譲渡所得の節税効果は低くても、不動産所得の節税を図ることができるでしょう。
青色申告については、このあとの項目で詳しく説明します。
不動産投資の節税で注意したいこと
不動産投資の目的はあくまで家賃収入を得ることであり、賃貸経営が疎かにならないことも重要です。
不動産投資で注意したいことを3つ紹介します。
リスクも把握しておく
投資にリスクはつきものですが、不動産投資も例外ではありません。さまざまなリスクがあるなか、特に大きいのが空室が埋まらないリスクです。不動産投資の主目的は家賃収入であり、空室が埋まらなければ目的を達成できません。
空室のリスクを避けるためには、入居の需要がある物件をよく吟味して選ぶことが大切です。
ほかにも、自然災害や建物の老朽化などで予想外の支出があるリスク、ローンの金利が上昇するリスク、不動産を売却する際に価格が下落するリスクなどがあります。どのようなリスクがあるかをあらかじめ把握し、事前に対策を立てることが不動産投資を成功させる秘訣です。
赤字が続くと融資の審査に影響が出る場合も
不動産投資の節税は経費計上により不動産所得を赤字にすることがポイントですが、赤字が続くと銀行からの評価が悪くなるという問題があります。将来、不動産投資の規模を拡大したり大規模修繕の必要が生じたりした場合、追加のローンが必要になることもあるでしょう。その際、赤字経営が影響して審査に通らない可能性があります。
ただし赤字には、キャッシュフローが出ていない場合とキャッシュフローは出ているが減価償却によって赤字になる場合の2種類があります。キャッシュフローとは、家賃収入から必要経費を差し引いて残るお金を指します。
このうち、銀行が評価の基準とするのは減価償却前の利益です。減価償却によって赤字になる場合は不動産投資としての事業は成功していると考えられ、金融機関の審査には影響しないといえます。そのため、賃貸経営ではできる限りキャッシュフローを増やすことが大切です。
キャッシュフローがないと支出を不動産収入でまかなえず、自己資金を持ち出すことにもなります。安定してキャッシュフローを生み出す経営で手元の現金を増やすことが、不動産投資をスムーズに行うコツです。
節税だけにとらわれない
不動産投資はあくまで家賃収入を得ることが目的であり、節税だけにとらわれて賃貸経営が疎かにならないよう注意が必要です。
不動産投資のメリットは、将来リタイアしたあとも長期的な収入を得やすいこと、ほかの投資方法と比較して急激な値動きがおきにくく安定しているという点です。これに対し節税は付属的な効果で、減価償却の期限を過ぎれば減価償却費を利用した節税はできなくなります。また、賃貸経営が順調に進んで黒字経営になることで節税効果は薄れていくでしょう。
不動産投資で成功するポイントとしては、収益性を重視した物件選びがあげられます。前に節税効果の高い物件を紹介しましたが、減価償却費で赤字にできる物件は、収益性が低い傾向もあります。節税効果のみを重視して収益性が低い物件を選んでしまうと、減価償却期間が終わったあとに収益が上がらず、継続した賃貸経営が難しくなります。
不動産投資の本来の目標はできるだけ多くの収益を上げることです。最終的には節税を考えなくても利益を出し続ける収益性の高い物件を選び、上手に賃貸経営をしていかなければなりません。
長期的な節税効果が期待できない
不動産投資によって節税をしても、その効果は一定期間だけです。
不動産投資では減価償却期間内のみ節税が可能です。減価償却が終わったあとは、投資物件から生じる家賃収入によって所得が大きくなるので、むしろ税額は大きくなる可能性があります。
節税目的で不動産投資をする方は、減価償却期間終了後に売却して他の物件へ買い換えるなどの対応も検討すべきでしょう。
青色申告控除が使えない
事業所得を申告する際には青色申告ができ、最大65万円の控除が適用されます。
しかし、不動産投資が事業と見なされるには次の条件をクリアしていなければなりません。
● 5棟以上の貸付用物件を保有している
● 10部屋以上のアパートやマンションがある
不動産投資において青色申告控除が利用できるのは、大きな規模で投資している方だけです。
節税目的で1〜2部屋程度の不動産を所有していても、控除の対象にはならないので注意しましょう。
利息については損益通算に一定の制限がある
借入金の利息は経費計上できます。
しかし、土地取得のための借入金の利息は損益通算できません。
建物代金は自己資金、土地取得は借入金を利用すると、借入金利息は損金算入できないので注意してください。
デッドクロスが発生する前に売却する
節税目的で不動産投資をする際は、売却のタイミングをあらかじめ検討する「出口戦略」を練っておくことが非常に重要です。
具体的には、売却はデッドクロスが発生する前に行ってください。
デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を指します。
現金が流出しない費用である減価償却費よりも、現金流出を伴う返済額が上回っている状態は、減価償却による節税メリットがないといえます。
ローンの元金返済額は経費計上できないので、デッドクロスの状態でも損益計算書上は黒字のことも多いですが、キャッシュフローはマイナスです。
黒字倒産を防ぐためにも、不動産はデッドクロスが発生する前に売却しましょう。
土地は減価償却できない
土地は減価償却できません。
減価償却できるのは建物だけですので、土地価格が高く建物価格が安い物件を購入しても節税効果は望めません。
節税を希望するのであれば、土地価格が安く建物価格が高い物件を選択しましょう。
節税の効果が見込める物件・見込めない物件
一口に不動産投資といっても、物件によって節税の効果はかなり異なります。節税目的で投資したいのであれば、節税効果が高い不動産を選んで投資することが重要です。
節税の効果が見込める物件と見込めない物件がどのようなものか、詳しく把握しておきましょう。
節税の効果が見込める物件は木造×築古物件
節税の効果が見込める物件は、木造の築古物件です。
木造住宅の耐用年数は22年ですので、1年あたりの減価償却金額が大きいため節税効果が高くなります。
また、法定耐用年数を超えている中古物件の耐用年数は、「法定耐用年数×20%」で計算します。
つまり、築22年以上の木造中古住宅であれば、22年×20%=4年(1年未満切り捨て)が耐用年数になります。
法定対象年数をすぎていれば、建物価格を4年という非常に短い期間で減価償却できるので、木造中古住宅は節税効果が非常に高いと言えます。
節税の効果が見込めない物件は新築区分マンション
減価償却費を多く計上できるのは中古築古の物件ですが、反対に、新築区分マンションは節税効果が薄くなります。
鉄筋コンクリートのマンションの耐用年数は47年です
マンション価格を47年かけて費用化するので、1年あたりの減価償却費は非常に少なくなります。新築マンションでは多くの節税効果は望めません。
節税には確定申告が必要
確定申告には白色申告と青色申告があり、青色申告にすれば特別控除を受けて節税効果を高めることができます。
青色申告で節税する方法や、確定申告の手順についてみていきましょう。
以下の記事では、不動産投資の確定申告で必要となる書類や、具体的な手続きの流れについて解説しています。
>不動産投資での確定申告を分かりやすく解説|必要書類や提出の流れも
青色申告でさらに節税できる
不動産投資の節税効果は、確定申告を青色申告にすることでさらに高まります。要件を満たせば、最大65万円の特別控除を受けられます。
以下の条件をすべて満たしている場合は、青色申告の対象です。まずは条件を満たしているか確認しておきましょう。
●不動産所得を得ている ●「所得税の青色申告承認申請書」を提出している ●複式簿記で帳簿を付ける ●期間内に確定申告書を提出する |
不動産投資で青色申告すると、特別控除のほかに最大3年間の赤字を繰り越せる、年間300万円の少額備品を全額損金算入できるなどのメリットもあります。
ただし、青色申告承認申請書は、青色申告をする年の3月15日までに所轄の税務署に提出しなければなりません。その年の1月16日以降に不動産投資を始めた場合は、開始から2ヵ月以内の提出が必要です。期限までに申告書を提出できない場合、その年の確定申告は白色申告になります。
また、特別控除を受けるためには複式簿記で帳簿をつけることが求められます。複式簿記とは金銭の出入りと資産の増減を並行して記載する方法です。確定申告では、複式簿記による記帳に基づいて作成した貸借対照表と損益計算書を確定申告書と一緒に提出します。
確定申告書の提出期限は翌年の2月16日から3月15日までの1ヵ月間で、日にちはその年の曜日によって変わる場合があります。
青色申告特別控除が10万円になるケース
不動産投資の規模が、次の基準を満たすときは、青色申告特別控除の金額が10万円になります。
● アパート・マンションは10室未満、戸建ては4棟以下
青色申告特別控除が55万円になるケース
55万円の控除を受けるには、事業規模の不動産所得であることが必要です。事業規模の不動産所得といえるためには、以下の基準を満たすことが求められます。
● アパート・マンションは10室以上、戸建ては5棟以上
青色申告特別控除が65万円になるケース
事業規模の不動産投資を行い、なおかつ確定申告書の提出をe-Taxで行うか、あるいは電子帳簿を保存すると控除額が65万円になります。
e-Taxの手続きをしておくと、翌年度以降の確定申告もスムーズになります。事業規模の不動産投資をおこなっている方は、e-Taxの手続きも済ませておきましょう。
確定申告を忘れるとペナルティを受ける
確定申告期間内に申告と納税をおこなわない場合は、延滞税や無申告加算税が課せられます。また、意図的に過少申告したときや申告しないときは過少申告加算税、重加算税、場合によっては刑事罰も課せられることがあるため注意が必要です。
青色申告で申告するときは提出書類も多く、手間がかかります。早めに準備をして、期間内に申告・納税しましょう。
確定申告の方法
確定申告は、以下の流れで行います。
1,必要書類を準備する 2,確定申告書・決算書を作成する 3,書類を提出する |
それぞれ順を追って説明します。
1.必要書類を準備する
確定申告に必要な書類は、以下のとおりです。
●確定申告書B、所得税青色申告決算書(不動産所得用) ●不動産収支内訳書 ●各種控除に必要な書類 ●源泉徴収票(給与所得がある場合) |
確定申告書や青色申告決算書は税務署で受け取るか、国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」で作成できます。会計ソフトを利用する場合、作成した帳簿をもとに確定申告書の作成ができて便利です。
また、医療費控除などの控除制度を利用するときは、控除手続きに必要な書類も準備してください。勤務先で年末調整をしている場合も、住宅ローン控除の初年度手続きや、ワンストップ特例制度を利用しないときのふるさと納税の手続きなどは確定申告でおこないます。いずれも節税につながるため、忘れずに手続きをしましょう。
2.確定申告書・決算書を作成する
確定申告書と決算書を作成します。いずれも「確定申告書等作成コーナー」で作成できます。
なお、「確定申告書等作成コーナー」ではデータ保存が可能です。早めに入力を開始すると、確定申告期間中の作業が減り、期間内に申告・納税しやすくなります。
3.書類を提出する
確定申告書の提出方法には、以下の3つがあります。
●税務署の窓口に持参 ●税務署に郵送 ●e-Taxで提出 |
65万円の特別控除を受けたい場合はe-Taxによる提出が必要で、電子帳簿による保存に代えることもできます。電子帳簿保存とは、会計ソフトを使うなどパソコン上で作成した帳簿をそのままデータ保存しておく方法です。紙の帳簿をスキャナで読み取り、電子データの形で保存する方法もあります。
2021年12月まで電子帳簿による保存には事前の税務署長の承認が必要でしたが、2022年1月以降は事前の承認が不要となりました。
不動産投資での節税の失敗例
不動産投資で節税を試みたものの、失敗してしまった事例としてよくあるのが次の2つです。
● 新築区分マンションを複数戸購入した
● 新築一棟マンションを購入した
それぞれの失敗例を紹介していきます。
新築区分マンションを複数戸購入した
一つ目の事例は、新築区分マンションを複数購入したケースです。
このようなケースは営業担当者が管理費や借入利息などの費用を経費計上できると経費による節税効果をアピールするのが一般的です。しかし、減価償却費以外の支出は実際に現金の支払いが生じるため、節税効果以上にキャッシュアウトのほうが大きくなります。
新築マンションでは減価償却費も多く計上できないため、結果的に所得が上がってしまい、所得税と住民税が高くなるので節税にはなりません。
新築一棟マンションを購入した
二つ目の事例は、新築一棟マンションを購入して、所得は増えたものの節税はできなかったケースです。
不動産会社の担当者が勧めるままに新築マンションを購入したところ、満室になり家賃収入は大きく上がりました。
しかし、鉄筋コンクリートの新築マンションであるため、減価償却費は大きく計上できません。
多くの経費計上ができなかったため、所得が大きくなったことから適用される税率は33%へ上昇してしまいました。
ローンの返済額も大きく、所得税額も増えたため、結果的に手元に残るお金は投資の前と大きくは変わりませんでした。
不動産投資における2つのリスクも考慮した投資を
不動産投資は節税になりますが、投資そのものにリスクもあります。
次の2つのリスクについてしっかりと認識した上で、不動産投資を行ってください。
● 家賃滞納リスク
● 空室リスク
家賃滞納リスク
家賃滞納リスクとは入居者が家賃を滞納するリスクです。
いくら入居率が高くても入居者が家賃を支払ってくれなければ、大家の収入になりません。
そればかりか、借入金の返済額のほうが大きくなってしまうリスクもあります。
不動産投資を活用した節税の仕組みは「家賃収入が借入金返済額を上回る」という前提があってはじめて成り立ちます。
不動産投資では入居者が家賃を滞納するリスクがあるので、保証会社を活用するなどしてリスクに備えましょう。
空室リスク
不動産投資には空室リスクもあります。
空室リスクとは賃貸物件が空室になり、家賃収入が入らないリスクです。
とくに区分マンションに投資をする場合は、空室になってしまえば、1円も家賃収入が無くなってしまいます。
空室リスクを排除するために、一棟マンションへの投資や複数の区分マンションへの投資を検討しましょう。
課税所得の高い人は不動産投資も検討してみよう
サラリーマンで課税所得が高い場合、不動産投資で節税ができます。不動産所得で出た赤字を給与所得と相殺し、税金を抑えるという方法です。特に多くの諸費用がかかる不動産購入の初年度は、高い節税効果が期待できるでしょう。節税のためには減価償却を大きくとれる物件を選ぶなどのコツがあります。
ただし、不動産投資の主目的は家賃収入で資産形成を図ることであり、本来の目的を忘れず健全な賃貸経営を行うことが大切です。また、不動産投資に伴うリスクの把握も忘れないようにしましょう。
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不動産投資についての個別相談にも対応していますので、不動産投資について疑問や不安がある方は、ぜひご検討ください。