不動産投資の法人化とは
不動産投資の法人化とは、不動産資産を管理するためのプライベートカンパニーを設立し、運営主体を個人から法人に切り替えることです。法人化によって、家賃収入として受け取るのではなく、役員報酬を受け取る形に移行します。
法人は、営利を目的としたさまざまな事業活動を展開するのが一般的です。しかし、本記事で説明する不動産投資の法人化においては、新たな事業活動に手を出すのではなく、あくまで物件の運用に特化して行う形です。
法人化は、さまざまな事業において、富裕層の税金対策で活用されてきました。しかし、近年は、不動産投資の法人化のように、富裕層以外の節税策としても注目されています。
また、個人での不動産投資は規模が大きすぎない限りは、株式投資と同様に副業には当たらないと一般的には考えられています。しかし、法人化によって役員報酬として受け取ると、副業規定に抵触する可能性もある点には注意しましょう。
個人・法人における節税効果の違い
不動産投資する際、個人と法人とではさまざまな違いがあります。特に大きいのは税金に関する違いです。以下の2つがポイントになります。
・所得税と法人税で税率が変わる
・法人は法人事業税を納める必要がある
それぞれ詳しく解説します。
所得税と法人税で税率が変わる
不動産投資での収益に対して、個人の場合は所得税がかかり、法人の場合は法人税がかかります。所得税と法人税は、課税対象・課税方法・税率・税額計算の対象期間など、さまざまな点で違いがあることを把握しておく必要があるでしょう。
個人の課税対象は個人の所得であり、法人の課税対象は法人の所得です。課税方法は、所得税の場合は、事業所得・給与所得・不動産所得・利子所得・雑所得など10種類の所得の分類があり、それぞれで計算方法が異なります。合算した課税所得課税所得が高くなるほど税率も高くなり、所得税率は5~45%に定められています。
一方の法人税には所得の区分がなく、法人が得た所得に対してすべて同じ方法で法人税が計算される点が特徴です。会社の規模や法人の種類によって法人税率が異なります。例えば、資本金1億円以下の普通法人の場合は23.2%で、課税所得が800万円以下の場合は15%(適用除外事業者の場合は19%)まで税率が軽減されます。
法人は法人事業税を納める必要がある
法人は、法人事業税の納付が必要です。法人が事業を行うにあたって、地方の段階からさまざまな行政サービスを受けています。行政サービスとは、道路・港湾・上下水道・消防・警察などのことです。
法人事業税はその経費の一部を負担する目的で課税されるもので、法人の事業所得に対して都道府県が課すことになるため、納付先は各地方自治体になります。ただし、法人の所得が赤字の場合は、納付する必要はありません。
法人は法人税と法人事業税のほかに、法人住民税を納める必要があります。法人事業税と法人住民税のおおよその目安は、法人税の税率プラス10%程度です。
なお、個人でも所得税と別に住民税約10%が課されます。
不動産投資で法人化するメリット
不動産投資で法人をすると、税金面をはじめさまざまなメリットを享受できます。ただし、不動産投資の目的や規模によっては、すべての場合でメリットとなるわけではなく、個人で運用した方がいいケースもあります。それぞれのメリットについて理解しておき、法人化した方がいいのかの見当材料にしてください。主なメリットとして考えられるのは、以下の7つです。
・経費処理の幅が広がる
・資金調達がしやすくなる
・税率の差によって節税できる
・所得分散によって節税できる
・赤字の繰り越し年数が10年になる
・短期(5年以下)の売却で税率が下がる
・減価償却費の金額を決められる
それぞれ詳しく解説していきます。
経費処理の幅が広がる
法人化することで、個人の場合よりも経費として計上できる範囲が広がります。例えば、保険料は個人では所得控除の対象ですが、法人では全額経費で計上できる場合もあります。
この他にも、役員報酬・退職金も経費として計上可能です。個人の場合でも、青色事業専従者として家族への給与を控除することか可能です。しかし、専従という条件が付くなど、さまざまな制約があります。法人化した場合には、家族への給与を役員報酬として計上できます。退職金も同じく計上可能です。
資金調達がしやすくなる
不動産投資の法人化を行うと、個人の時と比べて資金調達の手段が増えます。
個人の場合は、物件の担保価値を考慮しつつも年収をはじめとした個人属性に重きをおく金融機関の融資のみです。審査は厳しいうえ、ローン完済時の年齢を見られるなど、制約も多く課されます。
一方、法人は登記や決算書などによって、業績などが正式な書類にまとまっているので、金融機関からの評価が高くなりやすいです。特に保有物件を拡大していきたいと考えているなら、個人よりも多額の融資を受けやすいといえるでしょう。ただし、法人であっても、業績が悪ければ借りられないため、ただ法人化すればいいというわけではありません。
同じくらいの利益が出ている状態であれば、法人の方が金融機関の高い評価を得やすいと理解しておきましょう。
税率の差によって節税できる
個人の所得税率と法人税率は異なります。そのため、法人化で節税できる場合があります。ただし、すべてのケースで節税できるわけではありません。課税所得1,500万円(年収1,800~2,000万円)の例で、個人と法人の実効税率の差を比較してみましょう。
【個人の場合】
納税金額(所得税+住民税)=1,500万円×43%-153.6万円=491.4万円
所得税・住民税の速算表(2018年1月現在)
【法人の場合】
納税金額(法人税など)
=400万円×25.89%+400万円×27.57%+700万円×33.80%
=103.56万円+110.28万円+236.6万円
=450.44万円
法人の所得と実行税率(資本金1億円以下、2017年大阪市の場合)
課税とされる所得金額 | 法人実効税率(%) |
400万円未満 | 25.89 |
400万円超~800万円未満 | 27.57 |
800万円超 | 33.80 |
法人化した方が節税になるおおよその目安は、給与所得と不動産取得より社会保険料などの控除を引いた課税所得が900万円を超えたラインです。
参考:国税庁 所得税の税率
国税庁 法人税の税率
総務省 住民税
総務省 令和4年度 法人住民税・法人事業税 税率一覧表
総務省 地方法人税
大阪府 法人府民税・法人事業税・特別法人事業税・地方法人特別税の税率一覧
所得分散によって節税できる
個人で不動産投資を行っている場合は、獲得した利益のすべてが不動産オーナー1人の所得としてカウントされてしまうため、規模が大きくなれば比例して税率が上がってしまいます。一方、法人なら、不動産所得を役員報酬として事業に携わった配偶者や子どもなどに分配できるため、一人当たりの所得を抑えられます。
例えば、1000万円の利益があった時に、1人の所得すると、税率が高くなってしまいますが、4人に役員報酬という形で分配すると1人あたり250万円となり、税率が低く、トータルの納税額を抑えられるというわけです。(4人とも不動産事業に携わるという前提でなければ、原則役員報酬として分配できない点には注意してください。)
赤字の繰り越し年数が10年になる
法人化の節税メリットが特に大きくなるのは、不動産投資で赤字が出た場合です。個人の場合でも青色申告者であれば、最大で3年間繰り越せます。
一方、青色申告している法人の場合は、赤字を最大で10年間繰り越し可能です。黒字になった年度であっても、前期から繰り越した赤字で今期分と相殺すると所得が少なくなるため、節税につながるでしょう。しかもその効果が10年間継続するため、メリットはかなり大きくなります。
短期(5年以下)の売却で税率が下がる
不動産の売買をする際、売却益に税金がかかります。売却益は譲渡所得ともいい、個人で売買では、税率が変わる基準は5年です。5年以下は「短期譲渡所得」、5年以上は「長期譲渡所得」と区分けされています。
譲渡所得の税率
区分 | 所得税 | 住民税 |
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
引用:国税庁|税額の計算
間違いやすいのは5年のカウントの仕方です。売買する年の1月1日時点で5年経過しているかで税率が変わります。純粋な保有期間でカウントしない点は要注意です。5年以下で売却する場合は譲渡所得の39%と、高い税率が課されてしまいます。一方、法人では保有期間による税率の差はありません。そのため、5年以下で売買する可能性があるなら、法人の方が物件の資産規模に関わらず、支払う税金を少なくできます。
減価償却費の金額を決められる
減価償却費を任意で償却できることも、法人化のメリットの1つといえるでしょう。減価償却とは、建物や設備などの長期間にわたって使用する資産について、使用開始した時点から経過した年数を考慮して経費計上する方法です。
任意償却とはその言葉どおり、「任意に」会計処理できる会計処理です。赤字の時には減価償却費を少なくし、黒字の時には多くするなど、状況に応じて減価償却費を自由に設定して、調整できます。そのため、節税対策をしやすくなるメリットがあります。
法人化すべきタイミングとは
不動産投資での法人化では、タイミングが重要になります。適切なタイミングで法人化することによって、効果的な節税が可能になるなどメリットやデメリットが変わってくるためです。
法人化した方が良いタイミングと見極めのポイントは、以下の3つです。
・個人の時よりも税額が低くなる
・不動産事業を拡大しようと思っている
・専業大家は不動産所得が一定額以下なら急がなくて良い
それぞれ詳しく解説します。
個人の時よりも税額が低くなる
法人化の大きなメリットは、節税対策になることです。法人化すべきタイミングも、節税できるかどうかがポイントになるでしょう。法人税が一定であるのに対して、所得税は超過累進課税です。つまり、税率が所得に応じて税率が上がる仕組みになっているため、法人税と所得税の税額の逆転するタイミングが1つの目安になるでしょう。
ただし、実際には他の要素も考慮する必要があります。個人の場合は所得税にプラスして個人住民税と個人事業税が課税され、法人の場合は法人税に加えて法人事業税や法人住民税がかかるためです。法人化を考える1つの目安として、法人と個人の税額の逆転するタイミングを意識しておくと良いでしょう。先述の個人での課税所得900万円が一つの目安になります。
不動産事業を拡大しようと思っている
賃貸事業の拡大をするために融資を受けたいと考えている時も、法人化のタイミングといえるでしょう。一般的に、個人事業主よりも法人の方が信用力の高い傾向があります。つまり法人化することによって、銀行からの融資を受けやすくなる可能性があるのです。
この他にも、法人名義で融資を受けることにすると、自分を保証人に設定できるメリットもあります。個人事業主は自分名義での手続きとなるため、連帯保証人を探さなければなりません。融資の受けやすさという点でも、法人化のメリットがあります。
専業大家は不動産所得が一定額以下なら急がなくて良い
専業大家の場合は、不動産所得が一定額以下ならば法人化を急ぐ必要はありません。1つの目安となるのは、所得330万円超え〜695万円以下の範囲内かどうかです。この範囲内の場合の所得税率は20%、法人税率は15%で、税率は所得税率の方が高くなります。
しかし、法人を設立した場合には、設立費用・維持費用・法人住民税などがかかります。個人よりも税金と費用の合計金額の高くなる可能性があるため、法人化を急ぐ必要はありません。所得が330万円以下の場合は、個人の方が税金も費用も抑えられるため法人化は不要です。
不動産投資の法人化で注意すべき点
不動産投資の法人化においては、デメリットもあります。主なデメリットは、以下の4つです。
・法人の収入や社長でも自由に使えない
・法人化に手間や費用がかかる
・赤字経営でも法人住民税はかかり続ける
・個人所有の物件を法人所有にする際に税負担がある
メリットとデメリットの両方を考慮したうえで、法人化を検討することが重要です。
法人の収入や社長でも自由に使えない
個人事業主であれば基本的に事業で得た利益を自由に使えますが、法人のお金は個人で自由に使えません。法人として得たお金は、事業目標の達成や事業基盤の強化、出資者への利益還元のために使われるからです。
法人化した場合、法人と個人は別人格と見なされます。そのため、個人として使えるお金は、あくまでも会社から支払われる役員報酬の範囲です。また、役員報酬は、定款もしくは株主総会決議で定められます。役員報酬の金額が大きくなれば、個人に課せられる所得税率も高くなるため、注意が必要です。
法人化に手間や費用がかかる
法人化のデメリットの1つは、設立費用と維持費用がかかることです。小規模な不動産の法人でも、ある程度の設立費用がかかります。その内訳は、登記費用や定款の認証手数料、司法書士への報酬などです。
株式会社として設立するなら、少なくとも20~30万円程度はかかることを想定しておきましょう。費用だけでなく、定款の作成や書類の準備、事務手続きなどが必要であり、時間や手間もかかります。
法人を維持するための費用もかかります。税理士や社会保険労務士への報酬など、毎年必ずかかる費用があることを想定しておいてください。税理士と顧問契約を結んだ場合は、年額で50万円~70万円程度が必要になるケースもあるでしょう。
赤字経営でも法人住民税はかかり続ける
個人であれば、赤字になった場合には、所得税や住民税を納付する必要はありません。しかし、法人は赤字になった場合でも住民税均等割を納税する義務があるため、注意が必要です。
納税額は、会社の規模や所在地によって異なります。法人の所在地が東京23区内で資本金が1千万円以下で従業員数が50人以下の場合は、収益の有無に関わらず、支払い金額は7万円と定められています。
個人所有の物件を法人所有にする際に税負担がある
既に個人として不動産投資をしていて、運営主体を法人に変える場合、法人名義に変更する際の税負担などが発生します。主な費用は、以下の4つです。
・印紙税(売買契約書に貼付する収入印紙の代金)
・登録免許税(所有権の移転や抵当権抹消登記などに必要な登記印紙の代金)
・司法書士報酬(不動産登記申請の代行報酬)
・不動産取得税(不動産を譲り受けた法人の納める税金)
個人が不動産を購入した時に、上記の費用を既に1回支払っています。つまり、法人化するにあたって再度の支払いが生じ、最初から法人として不動産を購入するよりも手間も費用がかかってしまいます。法人に名義変更する場合には、これらの費用がかかることを想定しておいてください。
不動産投資を法人化する流れ
最後に、不動産投資を法人化するための具体的な手順を説明していきます。以下の法人化のおおまかな流れを把握したうえで、法人化すべきか判断するのがいいでしょう。
ステップ①設立する法人の種類を決める
ステップ②会社名や事業目的などを定める
ステップ③定款の作成や認証を進める
ステップ④登記書類の作成・申請を進める
ステップ⑤税務署で開業届を提出する
それぞれの準備内容について、詳しく解説します。
ステップ①設立する法人の種類を決める
まずは、設立する法人の種類を決めます。法人の中で一般的なのは「株式会社」でしょう。その他にも、「合同会社」「合資会社」「合名会社」などの種類があります。
会社の種類によって、設立費用や決算報告義務、出資者の負う責任の範囲、所有と経営の関係などさまざまな違いがあります。法人の種類を決めるためには、その違いを理解する必要があるでしょう。目的に合った法人を選択して、準備を進めます。
ステップ②会社名や事業目的などを定める
法人の種類を決めた後に、設立する会社の概要を定めます。概要とは、会社名(商号)や本店所在地、資本金の金額、発起人、各発起人の出資額、事業目的などです。
設立する会社の種類によって、決めなければならないことが変わります。例えば、株式会社の場合は、取締役を1人以上任命しなければなりません。
事業目的は「不動産事業」として、文章の最後に「前各号に付帯する一切の事業」という文面を入れておくと、業務の幅を広げる時に対応しやすくなるため、おすすめです。
ステップ③定款の作成や認証を進める
会社の概要を決めた後に、定格の作成と認証を進めます。定款とは法人を運営する際の根本的なルールを定めたものです。会社法に則って作成し、法人を設立する際に、必要な内容を加えて定義します。定款作成は会社設立時に義務づけられており、必須です。
定款の作成が完了して不備がないと確認できたら、本店所在地を管轄する公証役場の予約を取り、公証役場に必要書類や認証手数料を持参し、公証人の認証を受けます。定款認証には基本的に発起人全員が参加し、公証人の確認が済めば、認証完了です。
なお、難易度が高い定款の作成は、司法書士に依頼すると良いでしょう。作成と認証合わせて、2日程度の所要時間が目安です。
ステップ④登記書類の作成・申請を進める
定款の作成と認証に続いて、登記書類の作成・申請を進めます。登記書類とは、法人設立の際に提出する書類の総称です。具体的には、以下の5種類の書類が必要となります。
・資本金の払込証明書
・就任承諾書
・役員全員の印鑑証明書
・印鑑届出書
・登記申請書
種類が多く、作業も複雑になるため、定款と同じように司法書士に依頼することをおすすめします。申請の方法はオンラインとオフラインの2つの方法があり、初めて申請する場合には、オフラインが良いでしょう。窓口で確認しながら、申請作業を進められます。
登記書類の作成・申請の所要時間は、9日程度です。特に申請は7日程度時間がかかるため、余裕を持って作業を進めてください。申請する際には登記費用が発生するため、事前に金額を確認しておくと良いでしょう。
ステップ⑤税務署で開業届を提出する
登記が完了した後に、税務署で開業届を提出します。開業の手続きの際に必要となるのは、以下の5種類の書類です。
・登記簿謄本
・定款の写し
・株主の名簿の写し
・会社設立時の貸借対照表
・出資者の氏名、出資金額の証明書類
開業届けと併せて青色申告承認申請書を提出すると、「欠損金の繰越控除」を受けられるため、同時に手続きすることをおすすめします。
まとめ:資産規模を拡大や節税効果を狙うなら法人化が合理的
不動産投資の法人化には、本記事で紹介したように多くのメリットがあります。不動産投資では、さまざまな面で税制優遇を受けられるでしょう。しかし、法人化するタイミングを間違えてしまうと、個人の方が、税金が安かったという事態になりかねません。自分に合った不動産投資方法を知って利益を最大化させましょう。
マンツーマンでプロに聞こう。マンション投資の個別相談
不動産投資の法人化は様々な費用が必要になるうえ、手続きには手間や時間がかかります。また、効率的な税金対策を行うためには、適切なタイミングを見計らう必要があるため、不動産投資の基本的知識の学習をおすすめします。そんな方はぜひJ.P.RETURNSで無料の個別相談にご参加ください。
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